2026.7.23
なぜ静岡市は全国有数の里親委託率を実現できたのか? 先進地に学ぶピアサポートと支援体制の核心
■はじめに
7月2日、私も所属する「児童の養護と未来を考える議員連盟」の総会が開催され、我が国の里親制度について活発な議論が行われました。この会議では、政府が「骨太の方針」を定める一方で、児童相談所の高機能化や多機能化、里親委託率に関する記述がないことを受け、議連として強い危機感と怒りが表明されました。また、里親委託率75%を早期に達成することを目指すことが再確認され、その達成のため、全国でも上位の里親委託率を誇る、静岡市の実際の取り組みをヒアリングしました。このブログでは静岡市の里親制度の現状を概観することを通して、里親制度のさらなる推進のための道筋を掴んでまいります。
■なぜ里親制度が重要なのか
平成28年改革で「家庭養育優先原則(こどもは原則「家庭的な環境」で養育すべきであるとする方針)」が定められて以降、重要な制度のひとつとして里親制度は位置付けられました(家庭養育優先原則と家庭福祉政策についてはこちらから)。というのも、家庭養育優先原則においては「全てのこどもが愛情を浴びて育つことができるような家庭環境に属する」社会をつくることが重要な指針として掲げられており、虐待やネグレクトにより実親のもとに留まることができなくなったこどもは原則里親のもとで育てることが目標とされています。
■低い里親委託率と深刻な自治体間格差
静岡市のように、先進的な里親制度を採用し、高い里親委託率を誇る自治体が存在する一方で、全国の里親委託率は25.1%(令和5年度末)と非常に低水準です。また、令和5年度末の時点で、79都道府県市区別里親等委託率を集計した結果、最高値の新潟市の里親委託率(60.2%)と最低値の葛飾区(11.1%)の間には、約50%の違いがあり、自治体によって里親委託率に大きく格差が存在していることがわかります。
また、外国諸国と比較すると、イギリスが約70%、アメリカが約80%、オーストラリアが約90%(厚生労働省作成『乳幼児の里親委託推進等に関する調査報告書』より引用)と、日本より大幅に高い数値であることが明らかです。
この状況は非常に憂慮すべきものであり、早急に対策を講じなければなりません。国内外において、これらの格差を生み出した一因はこどもを家庭で育てることを原則と定めた「家庭養育優先原則」の不徹底にあり、この原則の徹底なしでは、里親委託率の向上、また「全てのこどもが幸せに育つことができる社会」の実現は不可能です。

出典:こども家庭庁令和7年7月こども家庭庁支援局家庭福祉課「社会的養育」
■里親同士の「ピアサポート」の重要性
全国里親会の事務局長を務める眞保和彦氏より、里親同士の助け合い、「ピアサポート」の推進の必要性について提起されました。里親同士の交流においては、これまで「レポートトーク(客観的な事実や情報を論理的かつ正確に伝える話し方)」が重要視され、「どのような問題が起こったか」やそれを「どのように解決したか」といった、淡々とした交流しか生じないために、里親は負担を1人で抱え込むことを余儀なくされてきました。
そこで、眞保氏は「ラポールトーク(相手との間に「信頼関係」や「安心感」を築くために感情や共感に働きかける会話手法)」を通して里親同士の関係を深化させることが重要であると主張します。これにより、里親同士の関係(ピアサポート)が構築され、里親が孤立することなく悩みなどを打ち上げられるだけでなく、適切な相談先(支援センターや児童相談所など)との連携も容易になります。

(図)全国里親会作成 講演資料より引用
このような「コミュニティーづくり」のため、静岡市里親会では、里親同士のつながりを深めるために「ラポールトーク」を重要視し、里親会の活動の中心として交流と親睦を据えています。また、先輩里親から体験談を聞いたり、里親仲間とつながることで里親同士に仲間意識が醸成され、「ほっとかない、ほっとけない関係性の里親会」が作られているといいます。これらの取り組みと結果として、静岡市では以下のような実績を達成しました。
- 里親会への入会率が大幅に上がり、十数年の間に20ポイント以上上昇した。
- 里親同士のつながりが深まり、里父も積極的に里親会の活動に参加するように。
- 里親仲間や先輩の助言により、支援センターや児童相談所の専門的な支援に繋がりやすくなり、養育不調の防止に。
- 様々な養育の現場を間近に見ることにより、「自分たちの現状」を知ることが可能に。
里子を迎えるにあたって、里親は育児や将来への不安を抱えることは少なくありません。里親が不安を共有し、安心して里親制度を利用していけるよう、ピアサポートを通じたコミュニティーづくりを進めていくことが重要です。
■里親会の課題と解決策の提案
上記のように、ピアサポートの形態を確かなものとしていくためには、前提として里親間の支援を司る里親会がピアサポートを実施できるような盤石な組織力を持つことが必要です。静岡市では、一般的な公務員が2~3年周期で異動してしまうという特徴が、長期的な信頼関係を要する里親支援においてボトルネックとなると捉え、平成25年度より里親支援業務全般を、市里親会を母体とする「NPO法人静岡市里親家庭支援センター」へと全面委託する民間協働体制に移行しました。この取り組みにより、静岡市では里親家庭支援センター主体で手厚い支援を行うことができるようになったと指摘されています。
しかしながら、各地の里親会には静岡市のような体制づくりを阻害するような課題が残存しているそうです。以下の課題がその顕著な例として挙げられています。
- 事務局体制が脆弱で、事務局を保持・維持する力がない。
- 里親の里親会への入会率が低く、組織率が上がらないため、離散している里親の情報が手に入らず、新たに入会の勧誘や活動参加の呼びかけができない。また、里親同士のつながりが薄いため、支援機関の活動効果が薄れてしまう。
- 行政のように、研修やリクルート活動を行うことが里親会の本質であるとの考えの残存。
- ピアサポートの考え方や支援効果に関する理解不足。
このような課題を紹介する一方で、それらに対する解決策があると力強い意見をいただきました。例えば、上記の課題に対しては以下のような対応を取ることで、解決に近づくのではないか、との提案がありました。
- 事務局体制が脆弱で、事務局を保持・維持する力がない。
→里親支援センター(フォスタリング機関)が、里親会の事務局を担うことにより、事務局の体制をより強靭化することを目指す。
- 里親の里親会への入会率が低く、組織率が上がらないため、離散している里親の情報が手に入らず、新たに入会の勧誘や活動参加の呼びかけができない。また、里親同士のつながりが薄いため、支援機関の活動効果が薄れてしまう。
→「里親会は、社会的養護の仕組みの中で重要な役割を持つことから、全ての里親は、里親会の活動に参加する必要がある」との国の養育方針を、養子縁組の際に児童相談所に里親に伝達し、方針を徹底するよう努める。
- 行政のように、研修やリクルート活動を行うことが里親会の本質であるとの考えの残存。
→里親支援センターがリクルートを行う際に、里親会入会の必要性を伝え、里親の状況を把握するため、里親支援センターにおいて里親の情報を一元化する。
- ピアサポートの考え方や支援効果に関する理解不足。
→里親会の役員に対して、研修を実施し、知識のアップデートを図る。
*フォスタリング機関:里親のリクルートから研修、マッチング、その後の養育・自立支援までを一貫して行う専門機関。そのうち、里親支援センターはそのフォスタリング業務を担う拠点として都道府県などから委託・指定された具体的な施設や機関を指す。
これらをまとめると、里親会をより機能させるためには、里親制度に関連する諸機関、特に里親支援センターにおける体制の刷新が必要であると私は考えます。この刷新を経て可能となる、里親の情報の一元管理や、スタッフによる支援の高度化といった様々な取り組みは、こどもがより安全で健やかに生活するために必須です。里親支援センターの機能強化に向け、このような刷新を全ての自治体において十分に行うために必要な予算措置を確保できるよう、努めてまいります。
■静岡市里親家庭支援センター長からの7つの提言
総会では加えて、前述の通り、フォスタリング機能の民間移行によりフォスタリング業務を担っている「NPO法人静岡市里親家庭支援センター」より、センター長を務めておられる佐野多恵子氏にお越しいただき、現場の課題の共有と、制度刷新のための提言をいただきました。以下では、佐野氏から共有された課題を紹介した上で、提言について見てまいります。
現在、全国各地の自治体では、里親が希望する条件(性別、年齢等)に里子が合致しない、里親制度の社会的認知度が低い等の理由で、登録里親を十分に確保することができていません〈課題①〉。また、発達障害など、児童が抱える問題が以前に増して複雑化し、里親委託が困難なケースが増加しています〈課題②〉。そこで、これらの問題に対しては、佐野氏より以下の提言がなされました。
- 愛着形成のため、里親委託時の育児休暇取得を100%可能にすること。
- 児童養護施設及び乳児院を高機能化し、治療を施してから里親に措置すること。
- 児童精神科医療の供給体制を整備すること。
里親制度の推進のためには、里子・里親双方に対する支援体制をより充実化し、双方の負担を軽減するとともに、里親制度を利用するためのハードルを下げることがなんとしても必要です。実子同様に、育児休暇取得の範囲を里子まで拡大すべきという提言や障がいを持つ里子を支援するための医療体制を整備すべきという提言はその一環として非常に重要です。
また、里親制度には里親と里子の間の愛着形成が不可欠であるものの、この性質から実親が「施設にこどもを預けるのは良いが里親に預けるのは嫌」と里親制度に理解を示さないという風潮が残存します。この問題に対して、
- 「養育日記」で里親から実親へ育児をつなぐなど、こども家庭復帰に向けた「親助け」の制度としての側面を強める
ことが提言されました。大前提としてこどもを虐待等の家庭問題から守ることが必要ですが、もし可能である場合は、こどもが家庭復帰をできるよう、適切な体制を整えることが肝要です。そのためにも、日頃から里親と実親間、また児童相談所などが連携できる体制を構築し、こどもの安全や健康を担保していくことが必要です。
加えて、児童相談所における里親支援体制についての声も寄せられました。現場では、人数不足やそれに伴う研修の未実施により、職員の専門性を担保できないという問題が生じているといいます。例えば、児童福祉司が虐待対応に追われ、里親対応に時間を割けない、また、里親専任職員が配置されないなど、業務に様々な支障が生じていると指摘を受けました。そこで、この課題に対しては、以下の提言を受けました。
- 児童福祉司の配置数および専門性を確保すること。
里親制度の推進のためには、現場が十分に政策を進めていけるよう、人員面、資金面において国が支援を行う必要があります。そのためにも、適切な人員の確保に向けた法整備を行うことや、国から追加の予算を支給することも検討に入れ、さらなる協議を進めてまいります。
ここまでは現時点における里親や里子に対する支援をより拡充するための提言についてみてまいりましたが、里子の成長に合わせた適切な支援を里親と連携して関係機関がとっていくこともまた必要です。これらの支援に際して、適切な支援を届けるためにはやはり既存の体制では足りません。そこで、里親制度における支援体制の整備について、佐野氏より2つの提言をいただきました。
- 養子縁組斡旋機関によるアフターフォロー実施の徹底
- 里親会の運営支援を里親支援センター業務に
里子を里親とマッチングした時点で支援を終了するのではなく、里子が成長し、自立するまで絶え間ない支援を行うことが行政の勤めであると私は考えます。例えば、里子に実親を知りたいと思う気持ちが芽生えた時に、彼らが「出自を知る権利」が担保されるように制度を整備したり、定期的に里親宅を訪問する仕組みを制度化することにより、こどもの安全を担保するなど、様々な支援を講じることが必要です。
■まとめ
本ブログでは、静岡市で行われている里親制度の特徴や長所、現場の目線からだからこそわかる課題や提言に焦点を当てて紹介してまいりました。これらのヒアリングを通して、私は里親制度の推進において里親同士や関係機関とのつながりをより強化し、里親をさらに支援できるようにするため、行政の体制を刷新していくことが必要であると考えます。我が国における里親制度はまだまだ発展途上であり、大小様々な課題が残っています。
私もこども政策を進める過程でこれまで里親制度にまつわる問題を解決し、制度をさらに推進していけるように積極的に活動してまいりましたが、里親委託率は未だ低く、解決に向けて尽力すべき問題が山積みです。全てのこどもが家庭において、幸せな生活を享受できるようにするため、これからもできるだけ多くの現場の声に耳を傾け、それらの意見をしっかり政治の最前線に反映していけるよう、尽力してまいります。





