2023.5.10
【韓国視察レポート①】児童権利保障院(韓国版こども家庭庁)を視察。養子縁組記録デタベースを徹底解説
写真)ユン・ヘミ児童権利保障院長と記念撮影
2022年12月21〜23日、韓国でこどもの権利や児童養護に関する3か所を視察し、意見交換を行いました。1つ目は、政府の機関である【児童権利保障院】、2つ目は児童養護施設の【イドゥン・アイ・ビル】、3つ目は児童養護施設の【健康な養⼦縁組家庭⽀援センター】です。今回は私が自分の目で見て来た内容を報告するとともに、韓国のこども政策を踏まえた日本のこども政策の改善点について、私の考えを述べたいと思います。
■こどもの権利を守る、児童権利保障院(韓国版こども家庭庁)
最初に訪れたのは、児童権利保障院です。児童権利保障院は「児童に対する国家責任の拡大」を目指し、すべての児童をきめ細かくケアできる公的システムを作るため、8つの児童保護関連中央機関を統合して設立された省庁です。とくに児童保護の側面が強い、韓国版こども家庭庁のような組織です。
主要な推進事業は以下の通りです。
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– (児童政策策定·評価支援)中・長期児童政策の策定、児童政策影響評価支援、研究遂行等
– (児童権利増進)国連の児童の権利に関する条約履行支援、児童参加権遊ぶ権利保障及び活
性化事業等
– (児童ケア支援)社会的弱者層の児童の成長·発達支援、地域児童センター及びみんなでケアセンター運営支援等
– (児童保護支援)児童虐待対応及び予防、児童保護システムの安定化、失踪児童予防及び
家族支援、養子縁組政策の策定及び養子縁組事後サービスの支援、家庭委託の活性化及
び政策改善支援等
– (児童自立支援)児童養育施設退所予定の児童(自立準備青年)の社会·経済的自立を支援
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中・長期でのこども政策の作成、政策の影響評価はEBPMの観点からも非常に素晴らしい
取組であると思います。日本では、これらはこども家庭庁が担っていく必要があります。また、国連の児童の権利に関する条約履行支援が推進事業として明確にされている点も日本で見習うべきだと感じました。
■こどもの出自を知る権利を保障するために必要な、養子縁組データベース
今回、中心的に議論したのは「養子縁組記録データベース及び養子縁組情報統合管理システム」の事業についてです。なぜ、養子縁組記録のデータベースが日本で必要なのか、私の問題意識は、「ベビーライフ事件」からはじまっています。
ベビーライフ事件を簡単に説明しておきます。2021年3月、特別養子縁組をあっせんする民間団体「ベビーライフ」がその前年の7月に突然事業を停止した問題で、団体が2012~18年度にあっせんした約300人のうち、半数超の養親が外国籍だったことが、読売新聞の取材でわかったという事件です。特別養子縁組あっせん法が施行されたことで団体が許可制となり、悪徳な団体は排除できるような法制度になりました。しかし、今回のベビーライフの事件は施行前の過渡期だったとはいえ、日本政府として、特別養子縁組の数すら把握しておらず安否確認ができていないということに問題があります。民間が担っている以上は突然の廃業リスクはどの団体にもあり得ます。(詳しくはこちら)
私は、こどもの出自を知る権利を保障するため、①許可団体が廃業をした場合も、しっかりと都道府県に情報を引き継げるシステムを整備すること、②特別養子縁組のデータベース化が必要であると、当時から訴えていました。その過程で、韓国ではすでに養子縁組のデータベース化が整っていると伺い、今回中心的に議論をさせて頂きました。
■情報の保管について
韓国の児童権利保障院では具体的に、 ①養子当事者 · 家族情報および家族を探すために必要なデータベースの運営、②養子当事者のデータベース構築および連携、③国内外の入養政策およびサービスに関する調査 · 研究、④入養関連国際協力業務 を担っています。
2009年に構築されたこのシステムでは、家族探しに必要な51項目(氏名、生年月日、実親及び施設情報等)がデータベース化されています。そして、養子縁組機関を通じて養子縁組された養子約24万人の情報、政府·自治体·児童福祉施設の養子縁組記録等を搭載しています。これらの情報は、養子縁組対象児童及び里親情報の確認及び養子家族探しに活用されます。
記録の保管についても、厳しく法律で定められており、入養機関長は入養記録を永久保存しなければならず、また、入養機関長は廃業した場合には、入養記録を児童権利保障院に移管せねばならなりません。そして、移管された児童権利保障院長はこの記録を永久保存しなければならないと定められています。
■情報開示について
韓国では、養子となった人は、児童権利保障院または入養機関が保有している、自分に関連する入養情報の開示を請求することができます。ただし、この法律に基づいて、養子となった人が未成年者である場合には、養親の同意を得なければならなりません。これは、養子となった人の情報を公開することで、養子のアイデンティティの確立を支援するためです。
そして、児童権利保障院または入養機関の長は、情報開示の要請があった際に、実親の同意を得て情報を開示しなければならないと定められています。ただし、実親が情報の開示に同意しない場合には、その実親の個人情報を除いて、情報を公開します。
情報開示のプロセスは以下の通りです。
1) 請求受付
2) 養子縁組の背景情報の確認
3) 実親の養子縁組情報を確認できる場合、
・実親の住所把握(行政情報共同利用網の照会及び自治体·公共機関の協力)後、実親が情報公開に同意するかを確認 (最大3回、同意可否確認の郵便を発送する)
・(実親の同意を得た場合)実親の情報提供及び再会支援
・(実親の同意を得られなかった場合)養子の養子縁組背景情報(養子縁組された当時の
実親の居住地域名を含む)の提供
4) 実親の養子縁組情報の確認が不可能な場合、
・養子の養子縁組背景情報(養子縁組された当時の実親の居住地域名を含む)の提供
・無縁故養子の場合、遺伝子検査及び養子縁組関連場所同行サービスの提供
この情報開示のプロセスについても細かく定められており、養子となったこどもの知る権利を国としてしっかりと保障していることが分かりました。また、実親から開示の同意を得た場合は情報提供と合わせて再会支援をおこなったり、逆に無縁故養子の場合は、遺伝子検査や養子縁組関連場所同行サービスまで提供するきめの細かさには大変感動しました。
■今後の取り組み
韓国では、「国家の責任を強化する先進国型養子縁組体系に改編」するべく準備を進めているそうです。具体的には、 ①養子縁組を国の業務と規定し、主な事項は公的機関で決定し、民間機関と協力するシステムに改編する。②国際社会のルールに適合した国際養子縁組法律作り(国際養子縁組関連法体系の統合、保健福祉部を中央当局に指定)、③養子縁組が可能な保護児童の韓国への養子縁組を推進(ベビーボックス児童等、親権者がいない児童に対する養子縁組優先原則の適用、里親の発掘及び養子縁組家族に対する支援により、養子縁組の活性化を図ることです。そして、養子縁組特例法及び国際養子縁組法の改正及び制定の推進をし、 2023年に法律施行推進 、2024年に法律施行及びハーグ条約批准養子縁組法の改正施行、およびハーグ条約批准を予定しているそうです。また、養子縁組記録館設立も計画していると伺いました。
■視察を終えて、今後日本に必要なこと
今回詳しく学んだ養子縁組のデータベースは、こどもの利益のために日本でも必要な制度であると再確認しました。それは前述の通りですが、示唆はそれだけではありませんでした。
私は、こども家庭庁創設の過程で「ユニバーサルサービスをしっかりと定義し、地方自治体に任せるのではなく、国として責任をもつべきだ」と常に訴えてきました。今回の韓国の児童権利保障院では、「児童に対する国家責任の拡大」を組織として目指している、という大方針に強く共感しました。
また、意見交換の中では、韓国においても日本と同じように、「家族中心」「血筋重視」の風土が根強く残っており、こどもの権利擁護を進める上で苦労をされてきた現状を伺いました。韓国でも日本と全く同じタイミングで、民法で親の懲戒権がなくなったそうですが、これは家庭内でこどもの権利を推進したことで実現できたそうです。体罰をしつけの一環として寛容にみられてきた経緯がありますが、それは家庭内であってはならないと転換したのです。
院長は「親への教育をリードしていくことも私たちの役目。肯定的な子育てをしましょう、と子育ての文化を変えていく試みをしている。権威主義的な家庭内の文化は変わるべきであると思っており、親に属いている服従のこどもではなく独立して認めあう関係として、家庭内の民主化がはかられている。そういった広報の努力をしている。ノルウェーでは10年かかったと言われているので、認識改善のための長いプロジェクトとして継続的に取り組んでいる」とおっしゃっていました。
しかし、日本も捨てたものではありません。院長から、「日本はこども基本法を制定したと聞いている。韓国ではまだこども基本法を制定でいていないので、非常に学ばなければいけない。今後も定期的に意見交換をして互いに学び合っていきましょう」と言っていただきました。今後も活発に意見交換をし、こどもの為の優れた政策を日本の政策に生かしていきたいと思います。
写真)児童権利保障院のみなさん(院長 ユン・ヘミさん、副院長 コ・グムラン
センター長ペ・ウシクさん、次長イ・ヒョンジュンさん、部長チョン・サウォンさん)との記念写真。歓迎の横断幕で迎えてくださいました。