2013.5.9

インドネシアにジパング発見! ―私がアジアに目覚めた訳

Asia Biz Inside vol.5 参議院議員山田太郎のアジアビジネス・インサイドレポート
~沸騰するアジアビジネスの現場から~

2013年05月09日

まさにジパング!

「こんな山奥に本当にいいものなんてあるんですか?」

是非、案内したい所があると、私達を連れたガイドが島の中央部にまで車で運んできた。島の方々の案内に疲れた私は、特に期待もせずその誘いにのった。

どうみてもそこは、ただのゴツゴツとした石山の島だった。ひたすら山奥に続く一本道を突き進む。何やら石のかけらをバイク(ヤマハのバイク)に積む若者がひっきりなしに往来している。

「あの若者が運んでいるもの何だか分かりますか?」

「え、ただの石じゃないんですか?何かの建築資材にでもするのではないですか?」

「実は、あの石、すべて金鉱石なんです」

「え、あれ、金なんですか?」

一瞬、私は現地ガイドが何を言っているのか分からなかった。何の変哲もない岩山、そこから採れた石。それが何と金を含む金鉱石だというのだ。

ここは、インドネシアのロンボク島。観光名所としてはバリ島があまりにも有名だが、この島は、まさにその隣の島。最近、ロンボク島も観光開発が進み、バリ島に比べて静かなビーチとして人気がでて来たが、その島の丁度反対側、その山の中腹で現代版「ゴールドラッシュ」が起こっているのだ。

どう見てもただの岩山。でもこれが何と金鉱山なのだ。そして、この地域の金鉱山は、5ppm以上の金の含有量を誇る。5ppmというのは、1トンの岩山から5グラムの金が採れる計算だ。つまり、この岩山1トンから5グラムの金が採れるのだ。

これが本当にすべて金の山だとしたら興奮する。ここは、正にジパング!

1トンで5グラム。そりゃ少なすぎるのではないか、と言う人がいる。しかし、世界的な金採掘では2~3ppmが精いっぱい。北米では1ppm以下でも採掘している所がある。だからこの地域5ppmは非常に含有量が多いといえる。

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(Photo1)何の変哲もない岩山にしか見えないが、これはすべて金を含む金鉱山なのだ

インドネシアの刹那的な働き方

「でも、金が採れる岩石は、地表から深くの所にあるんでしょう?」

「もともと金が採れる岩石は、山と山がぶつかり合い高い圧力で形成されるのだから。私ちょっとは地学で勉強しましたから。かつての日本の金鉱山は地表500メートル以上の深さから採掘されていたんです」

「一応、私はこれでも東京大学や東京工業大学の工学部で教壇に立っていますから」

と、私が自慢気にガイドに話をしたのも束の間。

「いや、それが、地表からわずか5メートルぐらいの所で採れるんですよ」

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(Photo2)先ほどの岩山の上で金鉱石を掘る人たち

何の変哲もない岩の上で、男たちがトンカチやカマを使って石を砕いているではないか。しかも、ドリルやベルトコンベアーの様なものは見当たらない。そういえば、これだけ山々に大規模な穴を開けていてもユンボ(重機)もなければ、トラックもない。コツコツ手で掘っているのだ。

至極素朴な質問をしてみた。

「どうして彼らは、重機を使わないのですか?」「金で儲けた金で重機を買って、もっともっと掘り当てればいいのではないですか?」

「いや彼らは、金を現金にするとベンツ買ったり、家を良くしたりするんですね。決して自分達の作業が楽になるような、生産性が上がるようなことを考えない」

「そのベンツは、免許もないのに乗り回すもんだからすぐに壊しちゃうんです」

「で、また、ここで穴を掘るってわけです」

要は、インドネシアでは、日本のように「生産性向上」とか「段取り」とかという概念がない。そういえば、インドネシアの工場で現地の人を使っている日本人の工場長も現場の問題点を指摘していたのを思い出す。

「インドネシアの人は、刹那主義というか、あまり次にどうしようと考えないみたいです。工夫をしたら楽になるとか、生産性を上げることより、目の前のもうけだけを見る、あまり深く考えな いことが困ります」

なるほど、金鉱山での作業も同じ案配だということを妙に納得。インドネシア進出の注意点として覚えておこう。

その金鉱石は、どうなるのかと言うと、街にバイクにくくりつけ(トラックで運ぶのではない!)街にある単純な作業場で精製される。

単純なドラムで数日間、金鉱石を粉砕して粉状にする。実はこの機械、日本の最新鋭の粉砕機ならものの2時間もかからないらしい。日本の機械を入れたら生産性は数十倍にもなるのにとつくづく思う。

その後、現地ではアガマン法という手法で金の精製を行っている。粉砕された金鉱石の粉は、水銀に混ぜて分離する。そして、マンガンとともにその液体を焼くとマンガンが採れた後から鮮やかな金が採れる。これをもう一度焼いて、金の塊を作るのだ。

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(Photo3)ドラムで回転させて金鉱石を砕く。日本の機械ならものの2時間で終わる

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(Photo4)固められた金の塊(約1グラムほどの金塊。市価で3000円ほど)

しかし、このアガマン法は非常に厄介な問題を現地で引き起こしている。この精製過程で出た水銀が作業場の近くに流れだし、池のようにたまっている。

茶色い色をしたこの水は、作業場の下流域にある民家にも流れ出す。そこでは、溜まった水を飲み水として使っている。農作物も作っているし、もっと下流では海に流れ出しているのだ。そして、その水の正体は、水銀がたっぷり含まれる猛毒の水溶液なのだ。

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(Photo5)水銀が含まれる池。作業場の周りにはこのような池が点在する

だから、現地では、金を掘って命を縮めていると言える。地方政府も規制に乗り出しているが、島のそこら中で精製を行って下流にその水銀の水溶液は流れてくるから防ぎようがない。要はその島の重要な産業にもなってしまっているのだ。

技術大国日本のビジネスチャンス

実は、ここには日本のチャンスがある。日本には、鉱物の精製法に強力な遠心分離機を使った遠心分離法という手法がある。これなら、水銀を使わないので公害が発生しない。多少、精製純度は落ちるが島の住民の生活と命が掛かっている。

これは、環境技術が進んだ日本の最先端の技術なのだ。

そこで、地元の知事に相談したところ、是非、そのような日本企業を誘致してほしいということになった。早速、いくつかの日本の企業にコンタクトを取ってみた。しかし、それぞれの企業からはあまりいい返事はなかった。

日本の中小企業にとって、こんなインドネシアの山奥まで進出することは、とてもハードルが高い。これまで、国内の中小の技術系企業は、大手商社に国内で機械を販売してきた。もともとグローバルで展開している中小企業は少ないのだ。中小企業には、金も情報も能力もない。そもそもグローバルにやっていける人材がいないのだ。

しかし、国内不況に喘ぐ日本の中小企業にとって市場はそこにある。現地も日本の技術を欲しがっているし、そこに住む人々がその技術で救われるのだ。沸騰するアジア各国、各地域は、日本の技術、サービス、知恵、そして日本のあらゆるものを求めているのだ。

今、私は参議院政府開発援助(ODA)等に関する特別委員会委員に所属している。これまで多くの国々の現状を見てきたからこそ、ODAを戦略的に活用しなければと強く思う。

これが、私がグローバルに、そして東南アジアにも目を向けていかなければと思った瞬間なのだ。

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