2026.5.26

気候変動影響評価レベル3の衝撃と、日本の打ち手―いま日本に必要な『適応』とは

■はじめに

5月14日に環境・温暖化対策調査会が開催され、私、山田太郎も環境部会の部会長として出席いたしました。この会議が開催された背景の一つとして、先日環境省によって発表された、第3次気候変動影響評価報告書https://www.env.go.jp/content/000380482.pdf)があります。

この報告書は概ね5年ごとに作成され、気候変動影響の総合的な評価を行うものであり、重大性・緊急性・確信度の3つの観点での各領域への影響が評価されました。その結果が評価項目を重要度順に3段階に区分した下図であり、多くの項目で重大性の最高評価であるレベル3に該当することが明らかになりました!!この状況をいかに改善していくのか、各省が連携し、気候変動への対策を早急に進めていかなくてはいけません。

そこで、この会議では気候変動の現状に関する報告とともに、気候変動への対応策として、また日本の国益を拡大する一つの手として「適応」が急務であると強調されました。このブログでは危機管理投資としての新たな勝ち筋である「適応」に関して日本で行われている事例や今後の展望に焦点を当てて紹介して参ります。


出典:環境省作成、第3次気候変動影響評価報告書(概算資料)より引用

■気候変動の世界的動向

そもそも気候変動とは、「化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の燃焼」に代表される、人間活動によって引き起こされた「気温及び気象パターンの長期的な変化」を指す用語です。現状のペースで温室効果ガスの排出が進むと、地球温暖化に誘発された気候変動により、異常気象が増加し、洪水や土砂災害、水不足が深刻化する恐れがあり、人々の生活や経済にも大きな影響を及ぼす可能性が指摘されています。そのため、2050年カーボンニュートラルを目指し、脱炭素・エネルギー安定供給・経済成長の同時実現が喫緊の課題として挙げられています。

■日本における気候変動影響

日本においては、気候変動により食料生産や経済に対するリスクが指摘されているだけでなく、健康や生態系への被害が想定されており、早急な対応が必要とされています。

例えば、気候変動の進展により高温によるコメ品質低下リスクが全国規模に拡大し、食料安全保障に影響を与える可能性があることが示されています。また、健康面では暑熱被害が高まる恐れがあります。2024年の熱中症による死亡者は初めて2000人を超え、同年の交通事故死者数である2663人に迫る規模となっています。さらに、温暖化によるニホンジカ・クビアカツヤカミキリといった生物の生息適地が拡大により、生態系への影響・また農産物への被害の増大が予測されています。

このように、気候変動は我が国にも甚大な影響をもたらすことが想定されており、迅速な対応を取ることが求められています。

出典:地域適応コンソーシアム事業 出典:厚生労働省 人口動態統計、警察庁交通事故統計より作成(気候変動によるコメの収量及び品質への影響に係る影響評価)

適応ビジネスの展望

このような気候変動への対応策として、従来のように温室効果ガスの排出を抑える「緩和」に加えて重要視されているのが、すでに起こりつつある、あるいは将来起こると予測される気候変動の影響に対して、被害を回避・軽減したり、新たな気候条件を利用して有益な機会を作り出したりする「適応」です。

適応策には経済対策から健康維持まで幅広く存在しますが、以下の図のように、気候変動による影響がより深刻化すると予測される項目に対しては特に想起に適応策を講じることが要求されています。

また、人口減少や高齢化が進む地域では、担い手や財源が限られ、適応策の実施が困難である場合があります。そのため、交流人口の拡大や地域資源を活用した起業等、自治体にとっての便益が明確であり、多様な地域課題の解決との相乗効果を持った適応策を講じることが強く求められています。

出典:会議資料、国立環境研究所気候変動適応センター作成「気候変動適応への取組」

 

■日本企業による適応ビジネスの取組

「適応」は上記のような、気候変動対策にはもちろんのこと、同時に日本の国益の向上へとつながる新たなビジネス機会になりうる可能性を秘めています。では、日本の企業は実際にどのような取組を行なっているのでしょうか。

一つの事例として、京都大学と近畿大学の共同研究による技術を核とした大学初のスタートアップである、リージョナルフィッシュ株式会社の取り組みが紹介されました。同社では、「AI/IoTを活用したスマート養殖」で、気候変動による水産資源の枯渇やタンパク質不足といった地球規模の課題解決を目指しており、具体的な取り組みとして、可食部を増やした「22世紀鯛」などの開発を行っています。

また、全国で問題となっている「磯焼け(ウニの大量発生による海藻の減少と生態系破壊)」の解決に取り組むウニノミクス株式会社も注目されています。この会社では、問題となっているウニを駆除して陸上養殖し、販売することで収益を得るビジネスモデルを構築しています。これにより、藻場を再生してCO2の吸収と生物多様性の保全に貢献しつつ、財務的リターンも成り立たせようとする取組を行なっています。

さらに、大企業によるインフラ強靱化の例として、五洋建設株式会社が国内外で推進している防波堤や港湾の強靱化といった防災インフラ整備事業が挙げられます。フラップゲート式可動防波堤や蓋意識養生風力の建設技術に加え、シンガポールでの海外事業では世界初となる「100年耐用の耐硫酸コンクリート」を用いた下水道管を開発・納品するなど、インフラ強靭化に向けた新たなソリューション開発に尽力しています。

このように、現時点においても様々な日本企業が適応をビジネス機会として捉え、推進していることがわかります。

■「適応」の推進を阻む障壁

では、なぜ気候変動への「適応」や適応ビジネスの普及は阻まれているのでしょうか。この理由は主に「将来の不確実性と効果測定の難しさ」、「財務的リターンの見えにくさ」、「コスト負担の所在」、「地域リソース不足」の4点にあります。

まず、気候変動による直接的な被害だけでなく、人口減少等の社会・経済的な変化をも統合した将来リスクを評価する手法が不十分であり、どの対策から優先して実施すべきかを自治体や事業者が自主的に判断して組み合わせることが困難であるという障壁が挙げられます。次に、適応は「危機管理投資」としての性質が強く、直接的な利益を生みにくい構造にあるため収益化が難しいという問題が存在します。また、適応策を講じる際にかかる対策費や損失を個人、地域、国のどの主体がどのように負担するのかという、コスト負担のあり方や、既述の地方における担い手や財源の不足といった問題も、適応の推進に対する障害として指摘されています。

今後適応ビジネスを普及させるためには、これらの障壁を取り除くことが必須です。A -PLAT(気候変動による影響や適応策について学べる日本の情報基盤)などの国や研究機関によるデータ・評価ツールの無償提供や適応事業に対する補助金等の初期支援、そして日本主導での適応技術の評価基準に関する国際的なルールづくりを進め、民間企業が安心して適応分野に投資できる「予見可能性」を高めていくことが求められます。

■まとめ

ここまで見てきたように、気候変動による様々な影響が深刻化することが予測される中で、従来の「緩和」に加え、すでに発生している気候変動による影響に対して積極的に対策を講じる「適応」の重要性が際立ってきています。環境部会長として、気候変動影響評価のフォローアップをしっかり務めていきます。