2026.5.18
被害額は700億円越え!深刻化する日本の農業知財の流出とチケット不正転売に対する政府の取り組みについて
2026年4月21日、私が事務局長を務める知的財産戦略調査会にて、(1)農業知財の保護・活用(2)チケット不正転売対策について政府における取り組みと今後の対応について議論しました。日本の優れた知的財産に対する投資はクールジャパン戦略の一端を担う存在であり、知的財産の活用が日本社会に大きな影響をもたらします。しかし、国内外の消費者に高く評価されているJapanブランドは農林水産物の海外流出という課題に直面しており、多大な経済損出(令和3年度特許庁調査によると、700億円超え)が発生しています。
この問題に対して、現状の取り組みと問題の所在を詳しく見ていきます。
〈農業知財の保護・活用等について〉
◼️問題の所在
日本には数多くの農産物ブランドが存在します。その多くが日本の生産者によって生み出され、土地の文化に根付いた付加価値とともに保護されています。農作物に対する育成者権や、販売営業を行う営業権などが権利として保護されており、この仕組みが農業者の利益と結びつくことで経済的に循環する仕組みが構築されています。しかし、日本の優良品種は海外で無断栽培され、商品名が同じ模倣品が販売されるなど、日本のブランド価値の毀損につながる権利侵害がまさに横行しています。

◼️日本のライセンス管理
農林水産省は、令和7年4月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」等の政府方針を踏まえ、知的財産の創造・保護・活用のさらなる推進を図っています。具体的には、農林水産物の付加価値向上のための保護・活用の取り組みの重要性、被害削減に向けた制度の徹底と強化の必要性が挙げられます。ここで重要なのは、農林水産分野の知的財産は保護するだけでなく、活かし、収益に変換する総合的な措置が求められているということです。これらの実現のための日本のライセンス管理を2つご紹介します。
1.植物新品種の育成者権
育成者権とは、種苗法に基づき新品種を育成した者に与えられる知的財産権のことです。新たに植物品種を育成すると、国に登録することによって、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を独占できる権利をいいます。育成者権者は、管理機関とのライセンス契約に基づくロイヤルティ収入を得て、新たな品種開発への投資を行います。また、海外の信頼できる事業者とライセンス契約を締結することによって無断利用されることを防ぎます。

2.地理的表示(GI)保護制度について
GI制度は、その地域ならではの要因や環境の中で育まれてきた品質や社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度をいいます。GI制度に登録されると、その品以外の地理的表示や類似表示が原則規制されるため、ブランド価値の維持・向上に貢献しています。「相互保護」の枠組みがあるため、日本のGI名称は外国でも保護されます。

◼️海外流出問題との関係性
海外流出に対抗できる制度があるように見える一方で、なぜ侵害が拡大しているのか?
主な理由としては、
・育成者権が付与される前の品種の流出
・地理的表示を偽った模倣品の流通です。
以上の例として、岡山県ブランドのシャインマスカット「晴王」の名称を表した模倣品が香港市場で流通し、正規品の1/5程度の値段で販売されていた事例があります。この事例では中国産の品を岡山県産と偽っていた流通業者を、JA全農が現地の税関と協力摘発し、流通業者に対して有罪判決が下されました。他の事案でも、無断栽培の拡大によって本来なら得られるはずのライセンス料が中国に対してだけでも年間100億円以上失われています。これらの問題の背景には、既存の知的財産保護制度が十分に活用されていないことも挙げられます。農業者にとって育成者権やGI制度は身近なものではないことに加え、申請のためのコストや手続きの煩雑さも有効活用を妨げる要因です。
以上に述べた現状に対して、日本弁理士会から知的財産を「守る」ことから「稼ぐ」ことに転換するための柱3つの提案を受けました。
第1の柱:基盤整備として、品種登録やGI制度の情報を一元化するデータベースの整備。情報を一元化することで、調査負担を軽減し知的財産を経済的な観点から循環させる仕組みを支援します。
第2の柱:農林水産業に適したアドバイスができる人材育成。専門家との接点がないことによる学びと実装の分担を改善することに貢献します。
第3の柱:ブランド保護の強化として、農業に関する知的財産権全体を保護することで海外展開を見据える。政府がコスト面を支援し、専門家が制度管理することで制度の空白を埋めることを期待。
〈チケット不正転売について〉
2026年3月18日、東京地方裁判所がチケットの不正転売がコンサート主催者に対する権利侵害であるとの判決を下しました。チケットの不正転売出品は昨今の問題となっていますが、その実態をご存知でしょうか?
◼️ライブエンタメ分野の基盤整備
自民党知的財産戦略調査会では、日本初のコンテンツ海外市場規模を2033年までに20兆円に拡大するとの目標達成に向けて、ライブエンタメ分野の収益力拡大・基盤整備の観点から、「チケット不正転売禁止法」を制定しました。しかし、依然として不正転売に関する事件は後を立たず、不正転売に対応するために金銭的・時間的な負担が興行主に発生しているとして、営業権の侵害が指摘されました。
◼️法律制定後も止まらない不正転売。なぜなのか?
チケット流通センターでは、複数の逮捕者が出ているものの、チケット不正転売をしている当事者だけを取り締まっているだけでは抜本的な解決はできません。現状の課題として以下のような事例が挙げられます。
- 転売サイトの匿名性の高さ
- 匿名性の高いプラットフォームが転売の温床となり、転売業者による反復的な高額転売が依然として継続されている。
- 個々人の違反行為ではなく、不正転売を成立させている転売サイトの取引構造の認識が困難
- 若年層は、転売サイトの利用が犯罪と認識せずに使用し、そのままネット空間で広がっていく状況。
- ライブ主催者側の本人確認負担
- 本人確認や警備の強化、発信者情報開示請求など本来であれば、発生しなかった業務が増え、イベント運営の妨げになる。
- 転売サイト側が利益追求を優先することで、不正転売を自主的に取り締まっていないため、犯罪事実の摘発が不可能
不正転売は、ライブ主催者が不利益を被るだけでなく、消費者問題としても慎重に考えていく必要性があります。チケット不正転売サイトに対して警察庁からは、チケット不正転売規範に関する検挙事件数は14件、消費者庁からは消費生活相談件数は年間825件(令和7年度)との報告を受けました。いずれの省庁も、再発防止に向けて啓発動画の作成や相談対応などを継続しているとのことでした。
◼️総括
今回の調査会で議論した2つの議題はいずれも、日本の知的財産の主戦力とも言える重要な分野です。農業知財に関しては、生産者を含めた当事者の制度理解が未だ不十分であり、組織的に権利行使をする仕組みの具体性が欠けていることも指摘できます。当事者の声をもとに慎重な措置と的確な制度設計構築に向けて今後も、尽力してまいります。
またチケット不正転売に関して、海賊版の事例と同様に匿名性の高さが問題解決の大きな障害となっていることが分かります。そのため、事業仲介者を含めた転売サイトに対しては法執行の強化と裁判例を踏まえた法改正の検討を進めてまいります。現行法の取り締まり強化を強く要請するとともに、今回の調査会でも確認されたように官民連携のもと、啓発活動と法執行の両面から不正転売防止策を推進してまいります。





