2022.7.20

中高生の居場所、カタリバアダチベースとb-labを視察。「今後の不登校支援に必要なこと」は何か!?

2022年6月8日、宮路拓馬内閣府大臣政務官とともにNPO法人カタリバの視察に行ってきました。カタリバとは、「どんな環境に生まれ育っても、未来を作り出す力を育める社会」をビジョンに、2001年から社会に10代の居場所と出番を作るために活動している団体です。代表の今村久美さんとは、こども政策の件でこれまで何度かお話をさせていただいておりましたが、現場は視察するのは初めて。今回は半日かけて2か所での活動を拝見しました。

■家庭環境などの課題を抱える子どもの居場所「アダチベース」

このアダチベースは、家庭環境に課題を抱える子ども達を対象に、ありのままの自分を受け入れる居場所をつくることで“心の安全基地を届ける”そんなコンセプトでつくられました。ただ物理的な居場所を提供するだけではなく、学習・体験・食事の4つを地域と連携しながら子どもたちに届けています。足立区の委託事業として6年前からスタートし、基本的には、行政から言及のあった子ども達が利用できます。昼と放課後の2部に分けて、朝10時から午後2時までは不登校支援、放課後は体験や食事等もできる居場所になっています。


▲第二の家のような存在。食事は毎日20食ほど作るそう。この日も、1名のこどもが料理を一緒に作っていました。1階はリビングのような雰囲気でキッチンもある。
2階は自習室。3階は普段はクラス形式で、タブレットでAI教材などで学ぶことができます。

アダチベース マネージャーの野倉さんから詳細を伺いました。
「アダチベースは貧困の連鎖を断つことがテーマです。現在足立区では、生活困窮世帯(の子どもたち)や不登校児童・生徒への支援、高校生の中退防止などの課題に取り組んでいますが、「貧困の連鎖」を断ち切るために必要なものは、「文化資本」「社会関係資本」「経済資本」「健康資本」の4つです。そのうち「経済資本」のサポートは難しいけれど、「文化資本」「社会関係資本」の提供ならできる。そこで、様々な体験プログラムやイベントの取り組み、人間関係づくりをしています。」

資料)カタリバ

「家庭的にリテラシーが高いとフリースクールの選択肢もありますが、困窮世帯だと経済的資本がないために引き込もりになることが多くあります。そこで、私たちは大人と触れ合う機会「ナナメの関係」を大切にしています。居場所づくりは、身体性、空間性、時間性、関係性の4つが大事です。この関係性が欠けると、居場所にならないと思っています。「このお兄さんのいう事は素直に聞きやすい。」とか「○○さんがこのイベントに参加するなら、私も参加してみる。」というような関係をいかに構築していけるかがポイントです。」

■情報の共有の壁

カタリバでは、行政・学校との連携も図られています。足立区福祉部くらしとしごとの相談センターとは定例会議を実施し、子どもたちの利用状況や様子などを随時報告しています。その他スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、学校の管理職・養護教諭への事業説明やケース会議などを行い、連携を深めています。行政はどうしても福祉と教育の壁があるので、そこを自分たちが繋いでいけるような第三セクターになれればとおっしゃっていました。

しかし、私が問題意識を持っていた高校の情報共有については、カタリバでさえも全く進んでいないと言います。高校中退の場合は、就労支援につなげる必要もありますし、妊娠や非行等の問題がある場合が多いのですが、その情報が行政やNPOには全く入ってきません。その理由は、情報を持っている主体がバラバラだからです。例えば都立高校の場合は都が情報を持っています。

また、現場では、センシティブな情報をどう共有するのかという課題にも直面していました。例えば、SSWは学校から担当依頼のあった生徒の情報しか得られず、福祉的なサポートや、不登校の支援が必要な生徒の全てが、SSWに情報連携されている訳ではない、という現状があります。があります。

 現在、私がデジタル大臣政務官としても関わっている「こどもの情報連携プロジェクトチーム」でも、セクターごとの情報共有をいかに進めるかが大きな課題だと認識しています。個人情報に配慮しつつ、地方自治体で安心して情報共有が可能になるよう、国としてもガイドラインを作成していきます。

■専門家人材不足解消のためのデジタル活用

 現在、教育支援センター設置していない地域は全国に4割あります。(詳しくはこちらのブログをご覧ください)基礎自治体では、ヤングケアラーや不登校など、対象人数が少なく専門性の高さが要求される支援ができません。今村さんの感覚では5万人の自治体でも難しいと言います。

 そこでカタリバでは、メタバースで教育支援センターを作る試みがされています。これの良い点は、家から出られないこどもでも、PCのスイッチを押すことはできるので、支援とつながることができることです。次に、世界中の専門家人材を雇用できることです。この日もアフリカ(ケニア)やシンガポール在住の職員がカウンセラーとして参加していました。例えば、アフリカから参加していた方は、日本では児童相談所に勤務していたメンタルヘルスの専門家です。家族がアフリカ転勤になったが、日本のこども達のために何かがしたい、とこの仕事に関わっているそうです。

▲メタバース上で近づくと、オンラインでつないでいる人の顔が出る仕組み。

サービスを使い始める時に支援コーディネーターがつき、家庭と学校を話しながら支援計画をつくります。オンライン上にさまざまなクラブもあります。学校の先生とも連携しているため、学校の先生がオンラインで顔だすこともあります。

「例えば小さな基礎自治体ではSSWもいません。地方にはNPOもありません。これまで、小さな基礎自治体で不登校支援のサポートに入ろうとしても、謎のNPOが入ってきても困ると教育委員会からストップが入りました。しかし、教育委員会からストップをされても、そこには代わりのプレーヤーがいないのです。今はスクールカウンセラーの予約が1か月待ちだったり、オンライン相談ができず、親が仕事を休む必要があったりと、ニーズに合致していません。また、ほとんどの自治体は担任からSSWを紹介してもらう必要があります。」

 リソースが限られている中で、質を担保しながら広域で支援を行うには、オンラインの活用は非常に有効です。このような事例を横展開していく必要があります。

■不登校支援に必要なこと

カタリバでは、不登校生徒に対して重層的支援が行われていました。自治体だけではここまできめ細やかな支援はできません。また、フリースペースや就労体験など様々な発想が出てくることも民間と連携する良い点だと思います。お金出すだけでは何も解決しません。文化資本、社会関係資本、経済資本、健康資本の4つの資本を官民が一緒になって、支援を提供し、貧困の連鎖を脱却していくことが重要です。また、中長期の調達改革も必要です。単年度での行政委託では、毎年事業計画を立てなければならずNPOに大きな負担になりますし、1年では子ども達との人間関係も構築できません。早急に見直しの検討をしてきたいと思います。

現場を見て改めて感じたことは、全国の不登校児童生徒数に対して(分母)、すべての施策の数(分子)がまったく足りていないということです。不登校特例校の数も全国に21校しかなく、教育支援センターも4割は設置されていないようでは、まったくカバーできていません。教育支援センターのオンライン化を含めて、全国設置を進める等、施策全体のアップデートを推進していきます。

■文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)

続いて視察をしたのは、文京区の施設b-lab(ビーラボ)。「b-lab」のコンセプトは、いつでもなんでも挑戦できる中高生の秘密基地です。ユースセンターとしてカタリバが運営を担っているこの施設は、2014年に成澤廣修文京区長肝いりで設立議論が開始されました。成澤区長とは、子ども基点で考える子育て研究会メンバーとしてChildren Firstの行政のあり方勉強会で講演いただきましたが、こども政策に大変熱い思いのある区長です。

写真)成澤文京区長、今村代表と

特徴は、b-lab開館までの約1年間、区と連携しながら利用者となる中高生をプロジェクトに巻き込み、ネーミング・ロゴ・空間デザインを考えるワークショップや、こども達3000人にアンケートなどを行いながら、施設を作ってきたということです。現在は、年間2万人のこども達が利用しています。

イベントは年間200回以上あり、音楽・料理・ダンス・スポーツ・文化など、中高生それぞれの関心に合わせて開催されています。季節ごとに大規模な文化祭イベントも行い、ライブやダンス発表やプレゼン大会など中高生が自分を表現する場になっています。2階は自習スペースになっており、自習応援も行っています。インタビューした高校生の子も、「部活動にも所属しながら、ここでは筋トレサークルを立ちあげました!楽しく活動しています。」と話してくれました。学校とも塾とも違う雰囲気で、子ども達が楽しそうに、イキイキしていたのが印象的でした。

■人材育成の課題

今村さんから、「こども家庭庁では、NPOのプレーヤーを育てることをスコープにいれて欲しい。」という強い要望がありました。こどもに関わるNPOやNGOはここ数年増えていません。特に地方の基礎自治体には、NPOがない地域も多数あります。今村さんがカタリバを立ちあげた20年前は、代表の平均年齢は40歳。しかし、今は60歳と新規の若い代表が育っていないことが分かります。

一方、市場自体は盛り上がっており、寄付の希望者や金額は年々増加しています。例えば、広域で活動しているNPOの活躍の場を広げ、地方に参画していけるような仕組みを作ることや、特定イシューに取り組んできた団体が孫団体を育てていくなど、広域での活躍と人材育成について、こども家庭庁の優先的な課題として取り組んで参ります。

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