2023.3.2

児相と警察が同じフロアに!虐待からこどもを守る岐阜県の仕組み

2023年2月10日、岐阜県にある「こどもサポート総合センター」に視察に行ってきました。ここは、重篤な児童虐待を見落とすことがないように、岐阜県、岐阜県警、岐阜市、市教育委員会の4者が連携して対応するための施設です。児相と警察の連携は、口ではよく言われることですが、実際の現場ではなかなか進んでいないのが現実です。全国初となる先進的な取り組みは、まもなく1年を迎えるとのことで、これまでの効果や課題について詳しく伺いました。

■「児相と警察の連携方法」とその効果

岐阜市の中心部に、10年前の統合により空いた校舎を活用した「子ども・若者総合支援センター“エールぎふ”」があります。ここは、子ども・若者のあらゆる悩み、不安に対してワンストップで総合的な支援が行われる場所です。教員、保育士など、約130名職員を配置し、親子支援教室、発達障害、不登校対応、20歳までのこどもの引きこもり支援など、幅広い敷居の低い支援をしています。この施設の中で家庭・児童相談を担うのが、「こどもサポート総合センター」です。

こどもサポート総合センターには、岐阜県中央子ども相談センター(児童相談所)の職員約100名のうちの職員5名と、岐阜県警(岐阜県警察本部生活安全部少年課)の少年育成支援官5名と警察官2名がワンルームで勤務しています。この児相職員5名は初動対応班として常駐し主に介入を担うこととしており、主に支援をおこなう本所の岐阜市担当職員と分離しています。そして、隣の部屋には、エールぎふの相談担当の職員が14名と岐阜市教育委員会の虐待担当3名のデスクが常設され、密に連絡をとっています。

2階には児童相談所職員と警察がついたてなしでワンルーム内に常駐している。

そして、通告が入るたびに開催される「緊急受理会議」を「合同」で開催しているそうです。この「合同緊急受理会議」では、子ども相談センター・エールぎふ・県警本部の職員20名が出席し、個別ケースについてジェノグラム(こどもを中心とした家族関係を理解するために作成される関係図)を用いて概要を共有し、初動方針を決定します。これまでは、警察が話すことで委縮することも多かったそうですが、それぞれの関係者がバラバラに座り、警察用語を使わずに平易な言葉を使用することで、話しやすいフラットな関係を目指しているそうです。この会議により、1時間もかからずに初動方針が決定します。児相の本体とはオンラインでつなぎ、所長も参加しています。

取り組み始めて約1年間での合同緊急受理会議は約300件、3機関合同での家庭訪問は半数に上ります。

この合同受理会議の後に、家庭訪問をしますが、身体的暴力のない軽微なものは、市「エールぎふ」と児相のみで対応する、重篤になる可能性がありそうな場合は、それぞれの機関から1名ずつ人員を出す、など、虐待の種別、程度に合せて、安全確認の方法や保護者への調査と指導の方法、捜査の介入の要否等を検討し対応します。

このように同じフロアにて市「エールぎふ」、県児相、警察が、合同で受理会議をおこなうことで明らかになった効果は主に4つです。

① 立場の異なる機関が同時にリスク評価を行うことで、重篤なケースの見過ごしを防止できた。

② 細かなニュアンスも含めた情報の即時共有が可能になり、より迅速で的確な対応が可能になった。

③ 各機関が持つ情報が異なることで生じていたアセスメントの違いがなくなった。

④ 通知・相談の窓口がひとつになり、通告者の負担が減った。

多くの現場でもそうだと思いますが、警察が見ている虐待と、市がみている虐待には差があります。命にかかわるものもあれば、自ら虐待しそうだという親からの通告、近所からの泣き声通告等、実際逮捕にいたらない通告も相当数あります。加えて、各機関が持つ情報が異なることで迅速に対応できない事例もあります。

しかし、3機関合同の受理会議で情報を即時に共有することで、警察がやるのか、市の職員が親に寄り添いながらやった方がいいのかという判断が迅速にできるようになっていた点が、非常に素晴らしいと感じました。

対応後のアセスメントは、「再発予防のために何をしているかを他機関に知ってもらうことは非常に重要だと感じる」とおっしゃっていました。

■岐阜県が成功した理由

警察と児相の連携が叫ばれて十数年、うまくいかない現場を多く見てきました。では、一体なぜ岐阜県はうまく連携できているのか?

その理由は「県警の働きかけ」にあります。

警察署長の経験もあった以前の岐阜県警生活安全部長の発案で、警察側から児相に協力をお願いをしたことから、この取り組みは始まりました。

「子どもの安全をなんとかしたい。」「同居することで、関係機関の生の声が一つになれば、警察と児相、市の強み・利点を生かしあえるのではないか」という強い思いがあったそうです。

人員増加をしているわけでないため、追加の費用は光熱費程度しかかかっていません。気持ちと実行力があれば、お金をかけずとも連携が成功することが分かりました。

ネット上では、こどもを持つ親たちから「相談先に警察がいるなんて怖そう」といったコメントも散見されましたが、実際は利用者が減ったりネガティブな意見はほとんどなく、逆に肩透かしだそうです。

■今後の取り組み

開所して1年で見えて来たことを生かし、今後の展望を伺いました。

① 児童虐待対応はDV、障害、低所得、非行、生活困窮などの問題が複合的に重なっていることが多いため、より多くの多機関連携の可能性を模索していく。

② さまざまな組み合わせで機関連携をする。

●触法通告(万引きなど、警察が触法事件調査後に児童通告)で児相職員と少年育成支援官が同席し、合同面接をおこなう。(児相と警察)

●ぐ犯相談のエールぎふへの親子通所に少年育成支援官が同席する。(市と警察)

③ 人材確保

●合同研修、人事交流などで、さまざまな経験を積むことでスキルアップする仕組み

■おわりに

児相と警察がうまく連携することで、実際に重篤な児童虐待の見過ごしを防止している全国初の素晴らしい取り組みを見せていただき、大変感動しました。このような先進事例の全国展開を促進していくことも、私の大きな役目だと思っています。具体的な横展開のための方法を早急に検討し、活動してまいります。

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